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このガイドはRustの所有権システムの3つの解説の3つ目です。 これはRustの最も独特で注目されている機能です。そして、Rust開発者はそれについて高度に精通しておくべきです。 所有権こそはRustがその最大の目標、メモリ安全性を得るための方法です。 そこにはいくつかの別個の概念があり、各概念が独自の章を持ちます。
それらの3つの章は関連していて、それらは順番に並んでいます。 所有権システムを完全に理解するためには、3つ全てを必要とするでしょう。
詳細に入る前に、所有権システムについての2つの重要な注意があります。
Rustは安全性とスピードに焦点を合わせます。 Rustはそれらの目標を、様々な「ゼロコスト抽象化」を通じて成し遂げます。 それは、Rustでは抽象化を機能させるためのコストをできる限り小さくすることを意味します。 所有権システムはゼロコスト抽象化の主な例です。 このガイドの中で話すであろう解析の全ては コンパイル時に行われます 。 それらのどの機能に対しても実行時のコストは全く掛かりません。
しかし、このシステムはあるコストを持ちます。それは学習曲線です。 多くのRust入門者は、私たちが「借用チェッカとの戦い」と呼ぶものを経験します。 そこではRustコンパイラが、開発者が正しいと考えるプログラムをコンパイルすることを拒絶します。 所有権がどのように機能するのかについてのプログラマのメンタルモデルがRustの実装する実際のルールにマッチしないため、これはしばしば起きます。 しかし、よいニュースがあります。より経験豊富なRustの開発者は次のことを報告します。 それは、所有権システムのルールと共にしばらく仕事をすれば、借用チェッカと戦うことは次第に少なくなっていく、というものです。
それを念頭に置いて、ライフタイムについて学びましょう。
他の誰かの所有するリソースへの参照の貸付けは複雑になることがあります。 例えば、次のような一連の作業を想像しましょう。
あー! あなたの参照は無効なリソースを指しています。 リソースがメモリであるとき、これはダングリングポインタまたは「解放後の使用」と呼ばれます。
これを修正するためには、ステップ3の後にステップ4が絶対に起こらないようにしなければなりません。 Rustでの所有権システムはこれをライフタイムと呼ばれる概念を通じて行います。それは参照の有効なスコープを記述するものです。
引数として参照を受け取る関数について、参照のライフタイムを黙示または明示できます。
fn main() { // implicit // 黙示的に fn foo(x: &i32) { } // explicit // 明示的に fn bar<'a>(x: &'a i32) { } }// 黙示的に fn foo(x: &i32) { } // 明示的に fn bar<'a>(x: &'a i32) { }
'a
は「ライフタイムa」と読みます。
技術的には参照は全てそれに関連するライフタイムを持ちますが、一般的な場合にはコンパイラがそれらを省略してもよいように計らってくれます(つまり、「省略」できるということです。 「ライフタイムの省略」 以下を見ましょう)。
しかし、それに入る前に、明示の例を分解しましょう。
fn bar<'a>(...)
関数の構文 については前に少し話しました。しかし、関数名の後の <>
については議論しませんでした。
関数は <>
の間に「ジェネリックパラメータ」を持つことができ、ライフタイムはその一種です。
他の種類のジェネリクスについては 本書の後の方 で議論しますが、とりあえず、ライフタイムの面に焦点を合わせましょう。
<>
はライフタイムを宣言するために使われます。
これは bar
が1つのライフタイム 'a
を持つことを意味します。
もし2つの参照引数があれば、それは次のような感じになるでしょう。
fn bar<'a, 'b>(...)
そして引数リストでは、名付けたライフタイムを使います。
fn main() { ...(x: &'a i32) }...(x: &'a i32)
もし &mut
参照が欲しいのならば、次のようにします。
...(x: &'a mut i32)
もし &mut i32
を &'a mut i32
と比較するならば、それらは同じです。それはライフタイム 'a
が &
と mut i32
の間にこっそり入っているだけです。
&mut i32
は「 i32
へのミュータブルな参照」のように読み、 &'a mut i32
は「ライフタイム 'a
を持つ i32
へのミュータブルな参照」のように読みます。
struct
の中参照を含む struct
を使うときにも、明示的なライフタイムを必要とするでしょう。
struct Foo<'a> { x: &'a i32, } fn main() { let y = &5; // これは`let _y = 5; let y = &_y;`と同じ let f = Foo { x: y }; println!("{}", f.x); }
見てのとおり、 struct
もライフタイムを持てます。
これは関数と同じ方法です。
struct Foo<'a> {
このようにライフタイムを宣言します。
fn main() { struct Foo<'a> { x: &'a i32, } }x: &'a i32,
そしてそれを使います。
それではなぜここでライフタイムを必要とするのでしょうか。
Foo
への全ての参照がそれの含む i32
への参照より長い間有効にはならないことを保証する必要があるからです。
impl
ブロックFoo
に次のようなメソッドを実装しましょう。
struct Foo<'a> { x: &'a i32, } impl<'a> Foo<'a> { fn x(&self) -> &'a i32 { self.x } } fn main() { let y = &5; // これは`let _y = 5; let y = &_y;`と同じ let f = Foo { x: y }; println!("x is: {}", f.x()); }
見てのとおり、 Foo
のライフタイムは impl
行で宣言する必要があります。
関数のときのように 'a
は2回繰り返されます。つまり、 impl<'a>
はライフタイム 'a
を定義し、 Foo<'a>
はそれを使うのです。
もし複数の参照があるなら、同じライフタイムを何度でも使えます。
fn main() { fn x_or_y<'a>(x: &'a str, y: &'a str) -> &'a str { x } }fn x_or_y<'a>(x: &'a str, y: &'a str) -> &'a str {
これは x
と y
が両方とも同じスコープで有効であり、戻り値もそのスコープで有効であることを示します。
もし x
と y
に違うライフタイムを持たせたいのであれば、複数のライフタイムパラメータを使えます。
fn x_or_y<'a, 'b>(x: &'a str, y: &'b str) -> &'a str {
この例では x
と y
が異なる有効なスコープを持ちますが、戻り値は x
と同じライフタイムを持ちます。
ライフタイムについて考えるには、参照の有効なスコープを可視化することです。 例えばこうです。
fn main() { // let y = &5; // -+ y goes into scope // // | // // stuff // | // // | // } // -+ y goes out of scope let y = &5; // -+ yがスコープに入る // | // stuff // | // | } // -+ yがスコープから出るfn main() { let y = &5; // -+ yがスコープに入る // | // stuff // | // | } // -+ yがスコープから出る
Foo
を追加するとこうなります。
struct Foo<'a> { x: &'a i32, } fn main() { let y = &5; // -+ yがスコープに入る let f = Foo { x: y }; // -+ fがスコープに入る // stuff // | // | } // -+ fとyがスコープから出る
f
は y
のスコープの中で有効なので、全て動きます。
もしそれがそうではなかったらどうでしょうか。
このコードは動かないでしょう。
struct Foo<'a> { x: &'a i32, } fn main() { let x; // -+ xがスコープに入る // | { // | let y = &5; // ---+ yがスコープに入る let f = Foo { x: y }; // ---+ fがスコープに入る x = &f.x; // | | ここでエラーが起きる } // ---+ fとyがスコープから出る // | println!("{}", x); // | } // -+ xがスコープから出る
ふう!
見てのとおり、ここでは f
と y
のスコープは x
のスコープよりも小さいです。
しかし x = &f.x
を実行するとき、 x
をまさにスコープから外れた何かの参照にしてしまいます。
名前の付いたライフタイムはそれらのスコープに名前を与える方法です。 何かに名前を与えることはそれについて話をできるようになるための最初のステップです。
「static」と名付けられたライフタイムは特別なライフタイムです。
それは何かがプログラム全体に渡るライフタイムを持つことを示します。
ほとんどのRustのプログラマが最初に 'static
に出会うのは、文字列を扱うときです。
let x: &'static str = "Hello, world.";
文字列リテラルは &'static str
型を持ちます。なぜなら、参照が常に有効だからです。それらは最終的なバイナリのデータセグメントに焼き付けられます。
もう1つの例はグローバルです。
static FOO: i32 = 5; let x: &'static i32 = &FOO;
これはバイナリのデータセグメントに i32
を追加します。そして、 x
はそれへの参照です。
Rustは関数本体については強力なローカル型推論をサポートしますが、要素のシグネチャについては別です。 そこで型推論が許されていないのは、要素のシグネチャだけで型がわかるようにするためです。 とはいえ、エルゴノミック(人間にとっての扱いやすさ)上の理由により、ライフタイムを決定する際には、「ライフタイムの省略」と呼ばれる、非常に制限された第二の推論アルゴリズムが適用されます。 ライフタイムの推論は、ライフタイムパラメータの推論だけに関係しており、たった3つの覚えやすく明確なルールに従います。 ライフタイムの省略は要素のシグネチャを短く書けることを意味しますが、ローカル型推論が適用されるときのように実際の型を隠すことはできません。
ライフタイムの省略について話すときには、 入力ライフタイム と 出力ライフタイム という用語を使います。 入力ライフタイム は関数の引数に関連するライフタイムで、 出力ライフタイム は関数の戻り値に関連するライフタイムです。 例えば、次の関数は入力ライフタイムを持ちます。
fn main() { fn foo<'a>(bar: &'a str) }fn foo<'a>(bar: &'a str)
この関数は出力ライフタイムを持ちます。
fn main() { fn foo<'a>() -> &'a str }fn foo<'a>() -> &'a str
この関数は両方の位置のライフタイムを持ちます。
fn main() { fn foo<'a>(bar: &'a str) -> &'a str }fn foo<'a>(bar: &'a str) -> &'a str
3つのルールを以下に示します。
&self
または &mut self
であれば、 self
のライフタイムは省略された出力ライフタイム全てに割り当てられるそうでないときは、出力ライフタイムの省略はエラーです。
ここにライフタイムの省略された関数の例を示します。 省略されたライフタイムの各例をその展開した形式と組み合わせています。
fn main() { // fn print(s: &str); // elided // fn print<'a>(s: &'a str); // expanded fn print(s: &str); // 省略された形 fn print<'a>(s: &'a str); // 展開した形 // fn debug(lvl: u32, s: &str); // elided // fn debug<'a>(lvl: u32, s: &'a str); // expanded fn debug(lvl: u32, s: &str); // 省略された形 fn debug<'a>(lvl: u32, s: &'a str); // 展開された形 // In the preceding example, `lvl` doesn’t need a lifetime because it’s not a // reference (`&`). Only things relating to references (such as a `struct` // which contains a reference) need lifetimes. // 前述の例では`lvl`はライフタイムを必要としません。なぜなら、それは参照(`&`) // ではないからです。(参照を含む`struct`のような)参照に関係するものだけがライ // フタイムを必要とします。 // fn substr(s: &str, until: u32) -> &str; // elided // fn substr<'a>(s: &'a str, until: u32) -> &'a str; // expanded fn substr(s: &str, until: u32) -> &str; // 省略された形 fn substr<'a>(s: &'a str, until: u32) -> &'a str; // 展開された形 // fn get_str() -> &str; // ILLEGAL, no inputs fn get_str() -> &str; // 不正。入力がない // fn frob(s: &str, t: &str) -> &str; // ILLEGAL, two inputs // fn frob<'a, 'b>(s: &'a str, t: &'b str) -> &str; // Expanded: Output lifetime is ambiguous fn frob(s: &str, t: &str) -> &str; // 不正。入力が2つある fn frob<'a, 'b>(s: &'a str, t: &'b str) -> &str; // 展開された形。出力ライフタイムが決まらない // fn get_mut(&mut self) -> &mut T; // elided // fn get_mut<'a>(&'a mut self) -> &'a mut T; // expanded fn get_mut(&mut self) -> &mut T; // 省略された形 fn get_mut<'a>(&'a mut self) -> &'a mut T; // 展開された形 // fn args<T: ToCStr>(&mut self, args: &[T]) -> &mut Command; // elided // fn args<'a, 'b, T: ToCStr>(&'a mut self, args: &'b [T]) -> &'a mut Command; // expanded fn args<T: ToCStr>(&mut self, args: &[T]) -> &mut Command; // 省略された形 fn args<'a, 'b, T: ToCStr>(&'a mut self, args: &'b [T]) -> &'a mut Command; // 展開された形 // fn new(buf: &mut [u8]) -> BufWriter; // elided // fn new<'a>(buf: &'a mut [u8]) -> BufWriter<'a>; // expanded fn new(buf: &mut [u8]) -> BufWriter; // 省略された形 fn new<'a>(buf: &'a mut [u8]) -> BufWriter<'a>; // 展開された形 }fn print(s: &str); // 省略された形 fn print<'a>(s: &'a str); // 展開した形 fn debug(lvl: u32, s: &str); // 省略された形 fn debug<'a>(lvl: u32, s: &'a str); // 展開された形 // 前述の例では`lvl`はライフタイムを必要としません。なぜなら、それは参照(`&`) // ではないからです。(参照を含む`struct`のような)参照に関係するものだけがライ // フタイムを必要とします。 fn substr(s: &str, until: u32) -> &str; // 省略された形 fn substr<'a>(s: &'a str, until: u32) -> &'a str; // 展開された形 fn get_str() -> &str; // 不正。入力がない fn frob(s: &str, t: &str) -> &str; // 不正。入力が2つある fn frob<'a, 'b>(s: &'a str, t: &'b str) -> &str; // 展開された形。出力ライフタイムが決まらない fn get_mut(&mut self) -> &mut T; // 省略された形 fn get_mut<'a>(&'a mut self) -> &'a mut T; // 展開された形 fn args<T: ToCStr>(&mut self, args: &[T]) -> &mut Command; // 省略された形 fn args<'a, 'b, T: ToCStr>(&'a mut self, args: &'b [T]) -> &'a mut Command; // 展開された形 fn new(buf: &mut [u8]) -> BufWriter; // 省略された形 fn new<'a>(buf: &'a mut [u8]) -> BufWriter<'a>; // 展開された形